看護師のためのトラブルと法的知識

転倒・転落における看護師の責任

「入院中の転倒で意識障害になり、

肺炎を併発して死亡したのは、
看護体制に問題があったとして、
家族らが病院を訴え、
裁判所は損害賠償を支払えとの判決を下した。」
という報道がありました。

看護では、高齢者の転倒がリスク管理の大きな課題になりますが、
対策が十分に採られているとは思えず、
不安になってしまうという人もいると思います。

 

この場合は、セルフマネジメントとして、
過失の内容である結果予見と結果回避の義務を尽くすことを
考えることが必要です。

 

@ 転倒・転落とセルフリスクマネジメント

 

転倒や転落は、療養上の世話を行う看護師にとって大きな課題です。

 

今も試行錯誤が続いていますが、
転倒に対して定評のある方法は以下のとおりです。

 

 1) 転倒のアセスメントスコアシートで
   患者のリスク要因を抽出する。
 2) 転倒防止マニュアル・チェックリストで
   リスクに応じた対策を考える。

 

 *日本看護協会「医療・看護安全管理情報NO.9
  「転倒・転落による事故を防ぐ」等を参考にしてください。

 

このような作業は、一見看護特有の作業と思われがちです。

 

ですが、法的に「セルフ(リーガル)リスクマネジメント」といって、
過失対策として位置づけられています。

 

A セルフ(リーガル)リスクマネジメントとは

 

過失は、私法(民法)上は、民法709条、415条により、
不法行為や債務不履行の成立要件のひとつとなります。

 

 *民法709条【不法行為による損害賠償】

 

  故意又は過失によって他人の利権又は法律上保護される利益を
 侵害した者は、これによって生じた障害を賠償する責任を負う。

 

そして、刑法上は、刑法211条により、
業務上過失致死傷の要件になります。

 

 *刑法211条【業務上過失致死傷等】

 

  業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、
 5年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
  過大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

 

仮に患者さんが傷ついたとしても、
過失がない限り、これらの法的責任は負いません。

 

判例では、「過失の要件は、結果の発生を予見することの可能性と
その義務である(最高裁昭和42年5月25判決)としています。

 

つまり、過失は結果予見可能性を前提とした「結果予見義務」と、
結果回避可能性を前提とした「結果回避義務」によって成り立っています。

 

この場合の「予見」とは、主観的なものを指し、
「回避」とは行動的なものを指しています。

 

医療における予見とは、「医療従事者の知識に基づいて先を見通すこと、
つまり、どのようなリスクがあるかを考えるリスク評価」のことであり、
回避とは「その見通す力を前提として適切な対応をすること、
つまり、リスクに対し具体的に対応する」ということです。

 

しっかりと予見し、その予見に見合った回避行動をとっていれば、
仮に事故が発生してしまったとしても、
過失責任をおわなということを意味しています。

 

これをセルフリスクマネジメント(自分で行う安全対策)といいます。
そして、セルフリスクマネジメントを行うことによって、
法的(リーガル)なリスクを軽減させます。

ケースの分析

@の転倒・転落とセルフリスクマネジメントは、
どのようなリスクがあるかを考えるという予見義務を果たすための作業で、
Aのセルフ(リーガル)リスクマネジメントは、
予見されたリスクへの具体的な対応をするという回避義務を果たすための作業です。

 

つまり、転倒・転落とセルフリスクマネジメントと、
セルフ(リーガル)リスクマネジメントの作業とは、
看護師自らが過失責任を負わないための
セルフリスクマネジメントそのものであることがわかります。

 

転倒や転落のリスクに対し、
まず定評のある方法にのっとり、
患者さんのリスクのアセスメントを行ったうえで、
対策を考えるという作業が必要です。

 

この作業をしっかり行うことで、
自らが過失責任を問われないようにすると共に、
患者さんの転倒・転落も防ぐようにしていきましょう。