看護師のためのトラブルと法的知識

患者さんにカルテを見せてほしいと頼まれたときの対応

入院患者のMさんから「私のカルテや看護記録を見せてください。」

といわれ、また、「信じていないように思われると困るので、
先生には言わないで、看護師Yさんだけでこの話は止めてほしい。」
と懇願されてしまいました。

 

このような場合は、どのように対応すればよいのでしょうか。

このように、患者さんにカルテを見せてほしいと頼まれた場合は、
看護師だけで判断することを避けましょう。

 

@ 患者さんのカルテへのアクセス権

 

個人情報保護法が施行され、
今後、患者さんや家族による情報開示の要望は、
今まで以上に多くなることが予想されます。

 

法的な観点から、患者さん・ご家族の
「カルテや看護記録等(の内容)」へのアクセス権(開示・閲覧権)
について、検討していきましょう。

 

今までは、訴訟を予定しない限り「カルテの内容」へのアクセス権は
認められませんでした(東京高裁昭和61年8月28日判決)。

 

そして、訴訟を前提とする場合は、
裁判所による証拠保全(民事訴訟法234条〜)や、
文書提出命令(民事訴訟法220条〜)によって、
カルテ等の提出が義務付けられていました。

 

 *証拠保全

 

  証拠保全とは、あらかじめ証拠を確保しておかないと、
 証拠が改ざんされる等の恐れがあるときに、
 原則として当事者からの申し立てに基づき、
 裁判所が証拠を確保する命令を出すことをいいます。

 

  この手続きでは、通常、証拠提出側(通常は病院)の意見は
 聞かれません。
  ですから、突然裁判所からの命令が伝達(送達)され、
 同日中に裁判官や申し立てた弁護士がその場に臨みます。

 

 *文書提出命令

 

  訴訟のルールを定める民事訴訟法は、
 相手方等の持つ証拠が一定の要件を備える際は、
 立証の便宜を考え、これを提出する義務を定めています。

 

  カルテや看護記録は通常、患者の利益のために作成された文書であるか、
 医療者と患者間の法律関係について作成された文書ですから、
 所持者(通常は病院)は、提出義務を負います。

 

このような「カルテや看護記録等(の内容)」へのアクセス権(開示・閲覧権)は、
古いルールです。

 

2005年4月から、個人情報保護法が施行され、
ルールは新しく変わっています。

 

新しいルールの元では、
「個人情報取扱事業者は、本人から、当該本人が識別される
保有個人データの開示を求められたときは、本人に対し、
政令で定める方法により、遅滞なく、当該保有個人データを
開示しなければならない(25条)」とされています。

 

ですから、訴訟を前提としなくても、原則として、
本人に開示することが義務付けられています。

 

ただし、開示しないことができる例外規定もあります。

 

さらに、2000年日本看護協会「看護記録の開示に関するガイドライン」、
2002年日本医師会「診療情報の提供に関する指針 第2版」など、
さまざまなガイドラインが作成され、
各病院でも、カルテ開示のための手続きが
定めらているところが増えてきました。

 

A 具体的な対応法

 

このケースの場合では、看護師Yはどのように対応すればよいのでしょうか。

 

 1) 患者のMさんが、カルテの記載内容から
   何を知ろうとしているのかを考えます。
    そして、患者のMさんが、何を心配しているのか、
   看護師の皆さんはそれを十分に受け止めているのかをよく考えます。

 

 2) 患者のMさんが、カルテの開示を真摯に求めていることがわかれば、
   医療者チームとしての対処方法を考えるべきです。

 

    個人の判断や現場の判断ではなく、
   チームとして、病院として考えることが大切です。

 

    「医師には知らせてほしくない」と言うMさんの気持ちを
   最大限に尊重することが必要ですが、
    しかしカルテはチーム医療に携わる人と
   患者さんとの接点にあるものであることを理解してもらい、
   病院のルールに従って示すことが大切です。

 

    「その人だけ」、「私だけ」では、
   後で不平等感を助長してしまうことになります。

 

 3) 開示する際は、単にカルテを差し出すのではなく、
   Mさんの心配点に寄り添いながら、説明を交えながら
   見てもらうようにしましょう。

 

    人は、見せるのを拒み拒まれるほど見たくなります。
    また、不要な疑心暗鬼を生むことにもなりますから、
   このような要望がでたときこそ、患者さんの悩みに寄り添い、
   健全なコミュニケーションをとるよい機会になります。

 

    患者さんにカルテを見るけんがあるのかなどと構えるのではなく、
   インフォームドコンセントをしっかり行って、
   患者さんの不安を取り除き、支えるのだと考え、
   適切な説明をすること、
   そして、カルテや看護記録の開示を心がけることが必要です。