看護師のためのトラブルと法的知識

術中の血管損傷の記録

手術中、医師Xが誤って、患者Mさんの血管を損傷し、

大量出血の事態になってしまいました。

 

一時は生命の危険が迫りましたが、
幸いその後の経過は順調です。

 

この場合のい術中の記録ですが、
看護師Yは、看護記録に「○○血管損傷」とすべきか、
単に「出血量2000ml」とすべきかどちらでしょうか。

 

また、この事実は、患者のMさんや、Mさんの家族に伝えるべきでしょうか。

看護記録に、損傷の点の記載をするかどうかは別として、
患者さん本人や、ご家族には、
大量出血になった事態について、お話するべきです。

 

@ 看護記録の根拠

 

看護記録の作成根拠や、看護記録に何を記載するべきかについては、
法の指示はありません。

 

看護記録は、医療法施行規則21条の5第2項に、
診療記録に含まれることが記されている程度です。

 

また、看護記録の記載が多岐にわたること、
記載のルールが明確でないことなどのため、
現場の看護師は看護記録の記載内容等について悩むことになります。

 

A ヒヤリ・ハットではない事例

 

このケースの場合のように、
手術中に医師が誤って患者さんの血管を損傷し、
大量出の事態になったというような事例は、
生命の危険が迫り、所定の処置を行ったもので、
単なるヒヤリ・ハットではありません。

 

事故であり、アクシデントに該当します。

 

この経緯は、医師法24条により、
まず、医師が自身でカルテに記載すべき事柄です。
看護師が看護記録に記載するときには、
医師と食い違いがないように注意すべきです。

 

B 看護記録への記入

 

看護記録(看護計画を除いて)は、
看護師が自ら行った看護過程、
すなわち、個々の患者さんについて観察した事項と、
実施した内容などを記録するものです。

 

ですから、厳密には、医師の行為を記載することまでは要求されません。

 

特に、このケースでは、血管を損傷したかどうかは、
医師の判断と食い違う可能性があります。

 

ですから、看護師が観察した患者Mさんの状態を示す
「出血量2000ml」のみを記載することでも許されます。

 

C 看護記録への記載と、患者さんや家族への説明は別問題

 

このような事態があった場合、
患者さんや家族への説明はとても問題です。

 

医療法が1997年に改正され、
医療法1条4第2項により、
「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、
医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、
医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない」
という一文が加わりました。

 

また、医療契約は準委任契約のため、
その委任過程を説明する義務があります。

 

もし、説明を怠れば、
事後にその問題を取り上げられ、
記録の開示や書き方を問題視され、
不信を招き、
訴訟を招くという悪循環になってしまうこともあります。

 

大量出血したということは、
それへの対処として、多量の輸血をしたのだと思います。

 

輸血は、身体への侵襲行為であるという側面もあることから、
患者さんや家族に対する説明は必須です。

 

中には、輸血を受けること自体、
敏感な患者さんもいます(エホバの証人の患者さんなど)。

 

また、輸血によって、感染するという危険性も
わずかですがあります。

 

このようなことから、なぜ多量の輸血をしなければならなかったのか、
医学的な説明をしなければ、
患者さんやご家族の納得を得ることはできないと考えられます。

 

ですから、輸血が必要となった理由である
血管の損傷についての説明もする必要があります。

 

もっとも、このような手続きは一人の看護師でできるものではありません。

 

医療のチーム、医師を含めた医療者間でのコンセンサスに基づき、
行う必要があります。

 

このような事態を想定し、事前にチームで話し合いをしておくことも必要です。

 

●個人情報保護法

 

個人情報保護法は、2005年4月から施行されています。

 

この個人情報保護法によって、
カルテ開示も義務化されることになりました。

 

ですから、訴訟を前提としていない場合であっても、
カルテの開示は義務付けられます。

 

今後は、開示請求に応じる体制、
また、請求されなくても積極的に情報を伝え、
説明する体制をいかにつくっていくかが課題となるでしょう。