看護師のためのトラブルと法的知識

採血時の針刺し事故の責任

肝炎患者であるMさんの採血を終え、

リキャップするとき、看護師Yは誤って自身の指に針を刺してしまいました。

 

万が一感染したときには、病院に責任を問うことはできるのでしょうか。

病院に責任を問うことができる場合もあります。

 

@ 針刺し事故の現状

 

木戸内ら、厚生労働科学特別研究事業
「針刺し・切創事故の現状と対策」による報告によると、
針刺し事故については、1年間に100実稼動病床あたり4件となっています。

 

また、平成14年9月30日、医政発第0930002号の
「看護師等による静脈注射の実施について」で、
静脈注射が診療の補助行為として公認されたことにより、
適切な安全対策がなされない限り、
針刺し事故は今以上に増えるとも考えられます。

 

A 医療者が安全に医療行為に携わることができる環境を確保する

 

医療者が安全に医療行為に携わることができる環境を確保するには、
どのような対策が必要なのでしょうか。

 

法的には、管理者(医療法人であれば理事長)は、
医療者が安全に労働することができるようにするために、
医療者に対して安全配慮義務を負担します。

 

 *安全配慮義務

 

  昭和59年4月10日の最高裁判決の判例では、
 「使用者は、労働者が労務提供のため設置する場所、
 設置若しくは器具等を使用し又は使用者の指示の下に
 労務を提供する過程において、
 労働者の生命および身体等を危険から保護するよう配慮すべき
 義務を負っている」としています。

 

安全配慮義務の内容は、各施設によって異なりますが、
適切な安全教育や対策がなされないまま、
労働者である医療者が針刺し事故を起こした場合は、
民法415条により、
管理者は労働者に生じた損害を賠償しなければなりません。

 

ですから、このケースの場合の看護師Yさんは、
万が一感染していた場合などは、
管理者に対して損害賠償を求めることは可能です。

 

しかし、自らの配慮も足りなかったということで、
過失相殺をされることになると思います。

 

 *民法415条

 

  民法415条は、債務不履行に関する総則的規定です。
  雇用者である管理者と、労働者である医療者は、
 雇用契約(労働契約)を結んでいます。
  雇用者は労働者からの労務の提供を受けることに対し、
 賃金の支払い義務を負います。
  また、労働契約に付随する義務として、
 安全配慮義務を負います。
  安全配慮義務が十分でなく、労働者に不都合が起きた場合、
 このケースの場合では感染等が起きた場合は、
 この民法415条を根拠に、雇用者は損害賠償責任を負担することになります。

 

このような事故の場合、看護師Yがまず、すべきことは、
体内に接種される微生物を
少しでも減少させるように処置をすることが必要です。

 

特に、B型肝炎、C型肝炎、HIV患者さんからの針刺し事故の場合は、
早急な処置と検査が必要になります。

 

同時に、看護師Yは、感染の有無に関わらず、
管理者の安全配慮義務を将来に渡って実効性を持たせるため、
管理者に報告をしなければなりません。

 

管理者・医療者が共同して行う予防対策と、
起きてしまった場合の適切な対応、
またその事例を踏まえた対策の更なる改善があってこそ、
初めて医療現場の安全性が向上します。

 

B 労働者として安全に医療を行う条件に関心を持つ

 

安全対策は、受益者である患者さんに向けて行うものです。

 

そして、患者さんを守る医療現場の安全を確保し、
リスクマネジメントとして医療事故・過誤を減らすためのものです。

 

しかし、医療現場は、医療者にとってもリスクがある場です。

 

医療者も労働者であるにもかかわらず、
今まではサービスの提供者の面が強調され、
労働者としての安全や健康の面が軽視されていました。

 

ですが、医療者の針刺し事故の防止は、
医療者を、医療のリスクからいかに守るかということになります。

 

医療者が質の高いサービスを提供するためにも、
最低限の医療者の安全、健康を維持することができる
良好な労働条件を確保することが不可欠です。

 

つまり、医療者が働く場としての医療現場の安全を確保することが重要です。