看護師のためのトラブルと法的知識

緊急医療における患者さんの受け入れ拒否は可能か?

手に負えない患者さんが搬送されてきた場合、

必ず受け入れなければならないのでしょうか。

 

また、どのような検査等の義務を負うのでしょうか。

診療を拒むことができる場合には制限があります。

 

判例によると、慎重な検査と十分な説明が必要です。

 

@ 緊急医療のジレンマ

 

緊急医療では、救命の成果を得ることもあります。

 

しかし、患者さんやご家族の期待に添えないことが、
通常の医療現場よりも多く生じ、
医療の体制不足がもっとも問われる場でもあります。

 

また、患者さんやご家族は急変に戸惑い、
考えたり説明を受けたりする余裕がないことが多くあります。

 

そして、不幸な結果となった場合、
緊急医療への怒りや不満が生じ、
訴訟へと持ち込まれることが少なくありません。

 

その場合、入り口の段階で表れるのが、
応召(招・需)義務と診療拒否の問題です。

 

医師法19条1項で医師が追う応召義務は、
医療法1条の5により、病院にもあると考えるのが有力です。

 

 * 医療法1条の5

 

  この法律において「病院」とは、医師又は歯科医師が、
 公衆又は特定多数人のため医業又は歯科医業を行う場所であって、
 20人以上の患者を入院させるための施設を有するものをいう。
  病院は、傷病者が、科学的でかつ適正な診療を受けることができる
 便宜を与えることを主たる目的として組織され、
 かつ、運営されるものでなければならない。

 

 

これに応じなかった場合、罰則はありません。

 

しかし、医師が正当な理由なく診療を拒否し、
患者さんに損害を与えた場合は、
医師に過失があるという「一応の推定」が働き、
推定を覆さない限り、
医師らに民事責任(損害賠償義務)を認める考えが有力です。

 

A 診療を拒むことができる場合

 

診療を拒むことができる「正当な理由」とは、どのような理由なのでしょうか。

 

以下の2つの行政通達を参考にしてみてください。

 

●1949年9月10日医発第752号「病院・診療所の診療に関する件」

 

何が正当な事由かは、それぞれの具体的な場合において社会通念上、
健全と認められる道徳的な判断によるべきだが、
医師が事故の標榜する診療科名以外の診療科に属する疾病について
診療を求められた場合も、
患者がこれを了承する場合は、一応正当の理由と認めうるが、
了承せず依然診療を求めるときは、応急の措置そのほかできるだけの
範囲のことをしなければならない。

 

●1974年4月16日医発第412号「医師法19条1項の診療に応ずる義務」

 

休日夜間診療、休日夜間当番医制などの方法により
地域における急患診療が確保され、
かつ地域住民に十分周知徹底されているような休日夜間診療体制が
敷かれている場合において、
医師が来院した患者に対し休日夜間診療所、
休日夜間当番院などで診療を受けるよう指示することは、
医師法19条1項の規定に反しない。

 

ただし症状が重篤であるなど、
直ちに必要な応急の措置を施さねば患者の生命、
身体に重大な影響が及ぶ恐れがある場合は、
医師は診療に応ずる義務がある。
B 検査や説明の義務

 

緊急医療機関といっても救急診療所、救急病院、救命救急センター、
高度救命救急センターなどにより、さまざまな点で異なる部分が多いです。

 

整形外科単科の二次救急医療機関として指定を受けているA病院で、
診察した医師が患者さんに対して必要な検査を怠り、
急性心筋梗塞を見逃し、適切な治療措置を講じなかったとして
争われた判例があります(東京地裁平成13年9月20日判決)。

 

このときの判決の要点は、以下のようなものでした。

 

 1) そのまま帰宅させるのであれば、十分な検査をしたうえで
   確実な診断を下すべきである。
 2) 整形外科の病気であるとの診断が付かないのであれば、
   整形外科の病気以外の病気、すなわち急性心筋梗塞の
   可能性も疑ってみるべきである。
 3) このような場合、自病院でできる検査は行うべきである。
 4) 必要な検査をする装置が自病院になければ、
   ほかの病院に依頼すべきである。
 5) 本人からの自主的な既往歴の開示がされなかったことは、
   医療の不十分と相殺されない。