看護師のためのトラブルと法的知識

たまたまた出くわした急病人への対応

新幹線や航空機の中で「急病人が出ました。お医者様、

又は医療者の方はいらっしゃいませんか?」というアナウンスがあります。

 

このようなアナウンスに、医療者は必ず応じなければならないのでしょうか。

 

応じなかった場合、応じた場合の法的な責任は
どのようになっているのでしょうか。

応ずる法的義務はありません。

 

しかし、応じた場合には、できる範囲で全力を尽くすべきです。

 

@ 応召(招・需)義務

 

新幹線や飛行機の中で、
「急病人が出ました。お医者様、
又は医療者の方はいらっしゃいませんか?」
というアナウンスがあった場合、
医療者は名乗るべきか否かについてですが、
倫理的には名乗るべきだが、法的な義務はないのでは?
と漠然と考えている人も多いのではないでしょうか。

 

通常は、このようなアナウンスは、
「ドクターコール」と呼ばれています。

 

ですから、医師の場合で考えてみましょう。

 

医師法19条1項により、医師には、応召(招・需)義務があります。

 

 *医師法19条1項

 

  診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、
 正当な事由がなければ、これを拒んではならない。

 

この応召(招・需)義務は、医師の業務が
「公衆衛生の向上および増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を
確保する(同1条)」という公益性を有し、
医師には業務独占(同17条)と名称独占(同18条)が認められ、
医師以外は医業を行うことができないことから発生した
公法上の義務です。

 

この応召(招・需)義務が生ずるには、
「診療に従事する」、「拒む正当な理由がないこと」の二つの条件があります。

 

診療に従事するとは、反復継続して医療を行う(業として行う)事を意味し、
正当な理由とは「患者の状況、医師本人の事情、近医の存在等を勘案し、
医師をして医療行為をなさしめている趣旨」から考えることとなります。

 

A法的な問題と倫理的な問題

 

医療者には、法的な義務がなくても、
このようなドクターコールには応じてほしいものです。

 

法的には応諾する必要がないとしても、
実際にその場で判断し、対応した場合の法的な責任については、
「良きサマリア人法」の適用があるかという問題として議論されるところです。

 

 *良きサマリア人の話

 

  良きサマリア人の話は、新約聖書のなかで有名なもののひとつです。
 「あるユダヤ人が強盗に襲われ倒れていたところ、
 通りかかった祭司や人々は見てみぬ振りをして通り過ぎましたが、
 あるサマリア人だけは彼を介抱し、宿屋に運んで宿代まで負担しました。」
  このように「よきサマリア人法」とは、
 善意の人が行為を行った結果、うまくいかなかった場合の過失責任は免除し、
 これにより善意の活動を支援することを意図しています。

 

 

たとえば、機内で行われる医療関連行為の法的な性質は、
患者さんに意識があり、診療の同意ができれば準委任になり、
意識がなく、診療の同意ができない場合は事務管理、
緊急性がある場合は緊急事務管理となります。

 

このような法的性質を論ずるのは、
個々での注意義務の程度が変わってくるためです。

 

委任(準委任も同じ)や事務管理では、民法644条の「善良な管理者の注意義務」を負います。
そして、緊急事務管理では、民法698条により「悪意・重過失」がなければ、
責任を負いません。

 

ですが、実際に、何が注意義務違反となるかについては、
患者さんへの対応の緊急性、設備の充足度などによって左右します。

 

B 実践的な指針

 

実践的には、以下のような指針を示すのが有用ではないでしょうか。

 

 1) 患者さんの病態を極力把握すると共に、
   利用できる人的・物的資源を確認し、
   フル・メディカルスタッフへの引継ぎを考える。

 

 2) これらを患者さんやご家族に説明し、理解を促す。

 

 3) 必要な範囲で行い、かつ自信をもって
   行うことができない医療的な援助は行わない。