看護師のためのトラブルと法的知識

不法入国の患者さんのへの対応

患者さんや、そのご家族の診察や対応をしたとき、

その方が外国人で、在留の権利画なかったり、
在留期間を超えている場合があります。

 

つまり不法入国の人を患者さんの中から見つけてしまった場合は、
入国管理局などに通報しなければならないのでしょうか。

この場合は、一律に考えるのではなく、守秘義務の趣旨を踏まえ、
場合に応じた対応をすることになります。

 

@ 問題の背景

 

この問題は、家庭内暴力の被害者の救済を目的とした
DV(ドメスティックバイオレンス)防止法の改正議論の中で、
外国人配偶者やその子供たちが被害者である場合、
病院に駆け込んだ人の中には在留資格がなかったり、
失っている(オーバーステイ)場合が多いことから議論になりました。

 

A 守秘義務の原則

 

守秘義務の原則の観点からまず考えます。

 

医療者は守秘義務を負っています。

 

医師や看護職が職務上知り得た患者の秘密を守ること
(保健師助産師看護師法42条の2)は、
ヒポクラテス時代からの倫理であり、
「ナイチンゲール誓詞」にもあります。

 

その倫理的な根拠は、
功利主義的に理解されるのが一般的です。

 

つまり、医師が第三者に情報を開示しないという信頼がなければ、
患者さんは既往歴、家族歴、成育歴、現病歴、生活情報など
全面的に、かつ率直に開示等しなくなり、
患者さんが必要な情報を提供してくれなければ、
医師は正確な診断を行うことができませんし、
適切な予後を示したり、最善の治療過程を勧めることができなくなります。

 

守秘義務は、お互いを信頼し、良き医療を行うための最低限の条件です。

 

そして、守秘義務は、医療の本質に根ざすものであって、
医業が職業として成立するための大前提であるといえるでしょう。

 

特に、精神病、性感染症、薬物乱用に対する治療においては、
守秘義務は患者さんの福祉になるばかりでなく、
社会的差別や汚名(スティグマ)から
患者さんを守ることにつながります。

 

 *保健師助産師看護師法42条の2

 

  保健師、看護師又は准看護師は、正当な理由がなく、
 その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。
  保健師、看護師または准看護師でなくなった後においても同様とする。

 

B 守秘義務の解除

 

法は「正当な理由」による守秘義務の解除(開示すること)を
認めています。

 

倫理的には、イギリスの倫理学者であるバーナード・ロー(Bernart Lo)は、
守秘義務解除の要件を以下のようにまとめています。

 

 1) 第三者の潜在的危害が重大である。

 

 2) 危害の及ぶ見込みが高い。

 

 3) 危険にさらされている人に警報し保護するために、ほかの方法がない。

 

 4) 守秘義務を解除することによって危害が避けられる。

 

 5) 守秘義務解除によって患者さんが被る害を
   最小限に抑えられるように配慮されている。

 

C ケースの分析

 

出入国管理および難民認定法では、
一定の場合の通報義務を認めています。

 

ですが、もし安易に通知すると、特にDV等で悩む患者さんは
治療を受けることを躊躇してしまうでしょう。

 

そのため、個々の事案を綿密に検討することが必要です。

 

平成15年11月17日付の法務省入国管理局長の通知の中でも、
「通報義務を履行すると当該行政機関に課せられている行政目的が
達成できないような例外的な場合には、
当該行政機関において通報義務により守られるべき利益と
各官署の職務の遂行という公益を比べながら、
通報するかどうかを個別に判断することも可能」としています。

 

このようなことから、以下のように場合に応じた対応をすることが必要です。

 

 1) 被害者が当該外国人である場合は、まずケアをし、
   入国制度を示し、自身で届出をさせるようにする。

 

 2) 加害者が当該外国人である場合は通告する。

 

 3) その被害の程度がひどい場合など、
   いずれ警察などのかかわりが必要になると予想される場合は通告する。