看護師のためのトラブルと法的知識

医療費の不払い問題への対応

医療費の支払いが滞っている患者さんへの対応はどのようにしたら良いのでしょうか。

 

経理担当から督促しても支払ってもらえません。

 

医療事故があった場合は、
治療費は病院持ちという話もききますが、
このようなケースにはどのように対処すべきでしょうか。

患者さんの「不払いの理由」に応じて対応します。

 

@ 患者さんと病院との法的関係

 

患者さんと病院との法的関係においては、
医療の提携義務が先行します。

 

医師や病院は、医療法19条1項により、応召(招・需)義務を負います。

 

 *医師法19条1項

 

  診療に従事する医師は、診療治療の求があった場合には、
 正当な事由がなければ、これを拒んではならない。

 

 

ですから、患者さんの診療の求めに対し「正当な事由」なく
拒むことはできないという公的な義務が先行します。

 

しかし、その結果、患者さんと病院(診療所)と交わされた診療契約は、
一般の契約と同じです。

 

法的にこの診療契約は、民法656条の準委任契約ですから、
委任の規定が適用され、
民法648条により、病院は患者の診療に要した費用(報酬)を
請求することができます。

 

ただし、日本では、国民皆保険制度を採用しています。

 

費用の一部は個人が窓口で負担しますが、
保険制度がその余を負担します。

 

A 患者さんの不払いの理由に応じた対応をする

 

不払いの場合、患者さんが支払いをしない理由を分類し、
その不払いの理由に応じた対応をすることが必要です。

 

患者さんが、支払いをしない理由には、
たとえば以下のようなものがあり、その対応についても以下のとおりです。

 

 1) 生活が困窮している

 

  生活が困窮していて、支払いができないという場合があります。

 

  生活が困窮している場合は、生活保護法15条による
 生活保護法や児童福祉法上の医療扶助を考えます。

 

  また、高額医療費などの医療上の減免措置の適用も考えることができます。

 

  *生活保護法15条

 

   医療扶助は、困窮のため最低限度の生活を
  維持することができない者に対して、
  以下に掲げる事項の範囲において行われる。
  1. 診療
  2. 薬剤又は治療材料
  3. 医学的処置、手術およびその他の治療ならびに施術
  4. 居宅における療養上の管理およびその療養に伴う世話その他の看護
  5. 病院又は診療所への入院およびその療養に伴う世話その他の看護
  6. 移送

 

 2) 生活が困窮しているわけではないが医療に納得していない

 

  生活が困窮しているわけではありませんが、
 医療行為そのものや、その説明、対応に不満を有し、
 支払いをしないという患者さんもいます。

 

  この場合には、患者さんに医療行為の内容を
 十分に説明することが必要です。

 

  患者さんやご家族が、医療事故を疑っているも場合は問題です。

 

  法的には、もし該当医療行為が病院・医師として配慮すべき
 善管注意義務(民法644条:善良な管理者としての注意義務=
 医療水準に沿った履行)を怠っていた結果、
 患者さんに不要な費用を発生させた場合は、
 これを請求することはできません。

 

  ですが、そのような注意義務違反が明白ではなく、
 患者さんが医療ミスを疑っているだけの場合もあります。

 

  患者さんが、医療ミスを疑い、支払いをしない場合は、
 医療費の不払いというよりも、
 医療事故や説明の不十分等の事後処理(コンフリクト・マネジメント)の問題です。

 

  *コンフリクト・マネジメント

 

   リスクマネジメントを十分に実施したとしても、
  事故が起こることがありますし、また事故を疑われる場合もあります。
   そのような場合、患者さんやご家族から強い非難が生じ、
  ここでの対応いかんが、訴訟という法的手法をとるかどうかの
  分岐点になるため、コンフリクト・マネジメント(紛争・対立)が
  必要になります。

 

 3) 1)、2)のいずれにも該当しない場合

 

  1)、2)のいずれにも該当しない場合は、
 しっかりと督促することが必要です。

 

  病院として督促状を送る、
 代理人(弁護士)名で文書(内容証明郵便など)を送るなど
 訴訟外の手続きをします。

 

  それでも支払われない場合は、法的な手続きが必要です。

 

  法的な手続きをする場合は、民事訴訟法382条/支払い督促による
 督促手続きを利用したり、民事調停、訴訟などの手段があります。

 

  法的な手続きを行う場合は、詳しくは弁護士や司法書士に
 相談してください。

 

  また、以前、支払いをしておらず、
 今回も支払われる見込みが薄い場合、医療行為を拒むことができるか?
 という問題もあります。

 

  これは、医師法19条1項の応召義務を負う医療側が、
 医療行為を拒むための正当な事由として不払いを主張することができるか?
 という問題です。

 

  「病院診療所の診療に関する件」という1949年9月10日医発第752号の
 厚生省医務局長通知では、
 「医業報酬が不払いであっても、直ちにこれを理由として
 診療を拒むことはできない。」とされ知恵増す。

 

  つまり、不払いは、医療側が、
 医療行為を拒む正当な事由にはあたらないということです。