看護師のためのトラブルと法的知識

人工呼吸器の取り外し事件はどのように考える?

2006年3月、富山県で人工呼吸器取り外し事件が起こりました。

 

過去にさかのぼると、何人かの方が取り外された事実があるようです。

 

ほかのスタッフも知っていた場合、殺人幇助の罪に問われるのでしょうか。

法的に、解決されていません。

 

チームとしての判断のほか、病院の倫理委員会、
外部のコンサルタント等の多様な意見を聞く機会を持つことが
必要なのではないでしょうか。

 

@ 法の規定

 

法の規定では、自殺することやしたことによる
本人の処罰はありません。

 

しかし、自殺者本人ではない者の「自殺関与」と「同意殺人」は、
刑法202条により処罰の対象となります。

 

 *刑法202条

 

  人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け
 若しくはその承諾を得て殺した者は6月以上7年以下の懲役、又は
 禁錮に処する。

 

また、法は、人の命を守ることを第一としています。

 

ですから、死につながる行為をする、
或いは死を防ぐ行為を意図的にしないことの法的な許容要件は、
倫理的観点よりも難しい要件となるでしょう。

 

A 人工呼吸器取り外し事件の問題の背景

 

日本では、終末期医療においてのこのような問題が多く取り上げられます。
そして、議論も尽きることがありません。

 

なぜなら、以下のような事情が関係しているからです。

 

 1) 自己決定権(日本国憲法11条、13条に根拠を置く)に
   何を盛り込むか、固有の制限(内在的な制約)は何か、
   自己決定権とほかの権利を調整するルールが確率していないこと。

 

 2) 決定する際に意思能力がない場合、患者さんがその事前に示した
   医師を尊重する法的な仕組みや判断に関する法整備がないこと。

 

 3) 事前の意思表示がないまま患者さんの意思能力が無くなった場合、
   家族の意思がどのような効果を有するのか、
   家族とはどの範囲を示すのかなどの明確な法的規定がないこと。

 

 4) 積極的・消極的安楽死、治療停止、尊厳死等の定義が共通していないこと。

 

 5) 終末期医療の事例が裁判所に持ち込まれることが少ないこと。

 

現在、終末期における人工呼吸器の取り外し事件のような問題の
解決法として、有力だといわれているのは、尊厳死等を認める
法律を作ることですが、
先進国を見てみても、法律を作りさえすれば解決するという
問題ではないことがわかります。

 

平成19年5月に、厚生労働省からの終末期医療の
決定プロセスに関するガイドライン
(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/05/dl/s0521-11a.pdf)
が示されていますが、、
法的な問題については解決されていません。

 

B 人工呼吸器取り外し事件の問題の解決の方向性

 

終末期における人工呼吸器取り外し事件等の問題の解決法として
現在考えられているのは、以下のようなものです。

 

 1) 疾患や処置・治療など、たとえば鎮静剤や輸液などの方法を特定し、
   医療者と法律家、患者さん等が参加し、ガイドラインを作ること。

 

 2) 判断はチームとして行うと共に、可能であれば院内の倫理委員会や
   外部の意見を聞くことができるシステム(リンリコンサルテーション)
   で支える。

 

C 裁判所の判断

 

終末期医療の事例は、裁判所に持ち込まれることはとても少ないです。

 

ですが、1995年3月28日判決の東海大学安楽死事件や、
2005年3月25日判決の川崎協同病院安楽死事件における
横浜地方裁判所の判例は、治療中止についての判断として貴重なものとなるでしょう。

 

●東海大学安楽死事件(1995年3月28日判決)の要件

 

1) 患者が治癒不可能な病気に冒され、回復の見込みがなく
  死が避けられない末期状態にある。

 

2) 治療行為の中止を求める患者の意思表示が存在し、
  それは治療行為の中止を行う時点で存在すること。
   患者の事前の意思表示がなんら存在しない場合は、
  家族の意思表示から患者の医師を推測すること許される。
  (中略)そのためには、意思表示をする家族が、
  患者の性格や価値観、人生観等について十分に知り、
  その医師を的確に推測しうる立場にあることが必要であり、 
  更に患者自身が意思表示する場合と同様、
  患者の病状、治療内容、予後などについて十分な情報を
  正確な知識を有していることが必要である。
   そして、患者の立場に立った上での真摯な考慮に基づいた
  意思表示でなければならない。

 

3) 治療行為の中止の対象となる措置は、薬物投与、
  化学療法、人工透析、人工呼吸器、輸血、栄養・水分補給等、
  疾病を治療するための治療措置及び対症療法である治療措置、
  さらには生命維持のための治療措置など、すべてが対象となっても良い。
   しかし、どのような措置を何時どの時点で中止するかは、
  死期の切迫の程度、当該措置の中止による死期への影響の程度などを
  考慮して、医学的にももはや無意味であることの適正さを判断し、
  自然の死を迎えさせるという目的に沿って決定されるべきである。