看護師のためのトラブルと法的知識

トリアージに関する法的問題

2005年のJR福知山線事故のような大規模災害時や、

救急外来や小児救急の現場では、「トリアージ」が取り上げられました。

 

また、最近も、救急車の搬送がパンク寸前のため、
総務省消防庁がトリアージ導入の検討を始めたことも報道されています。

 

トリアージとは、どのようなもので、
どのような法的問題があると考えられるのでしょうか。

応召(招・需要)義務等を定めた医師法との関係に注意します。

 

@ トリアージとは

 

トリアージは、戦陣医療から発生した考え方です。

 

しかし、現在は、「医療能力を超えた過剰な負担」がある場合、
「医療資源の適切な配分」を行うことで、
より必要な人に迅速な医療を届けるための
患者選別の方法論としての考え方になっています。

 

このようなトリアージが必要となる場面や対象はさまざまで、
現場で救急隊が行う場面、
医療機関で医療従事者が行う場面、
大規模災害が生じた場合のように
現場も医療機関も栄養を受けた中で行われる場合があります。

 

また、対象者が、小児であることもあり、
高齢者や妊産婦、精神疾患患者などの「弱者」であることもあります。

 

A トリアージに関連する法律問題

 

トリアージに関連すると思われる法律問題は以下のようなものです。

 

1) 医師法20条、17条により、
  医師のみが死亡の判断ができます(死亡診断書を発行できる)が、
  救急隊員が死亡を判断し、その結果選別することが許されるのかどうか。
  (救急隊員の中には、救命救急士の資格を持っている人と、
  もっていない人がいます。)

 

 *医師法20条

 

  医師は、自ら診察しないで治療をし、
 もしくは診断書若しくは処方箋を交付し、
 自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは
 死産証明書を交付し、又は自ら検案をしないで
 検案書を交付してはならない。

 

 *医師法17条

 

  医師でなければ、医業をなしてはならない。

 

2) 医師や病院は、患者さんの応召(招・需)義務を負っています。
   しかし、医師法19条1項に対して、トリアージの結果、
  医療行為を受けられなかった者に対する応召義務違反は問われないのかどうか。

 

 *医師法19条1項

 

  診療に従事する医師は、診療治療の求があった場合には、
 正当な事由がなければ、これを拒んではならない。

 

3) 患者さんやご家族の意向はどのように関係するのか。

 

4) いったん救急行為を始めたが、その後、より緊急度の高い
  患者さんが現れた場合に、先行する行為を中止することは
  許されるのかどうか。

 

B 医師法との関係

 

災害現場などに初めに到着した救急隊がトリアージを行う場合は、
患者さんに色識別したタッグをつけます。

 

赤: 直ちに治療が行われないと死亡。
黄: 重症であるが短期間なら状態は安定。
緑: 致命的ではない。
黒: 生命兆候がないか、生存の可能性がない。

 

このようなタッグをつけますが、
もし、黒タッグを「死の判定」と確定的に位置づけるとするなら、
医師法との関係が生じます。

 

ですが、タッグをつける作業が、搬送順位を選択するだけで、
死の判定でも、医療行為そのものでもないとするなら、
医師法には抵触しないと考えることができます。

 

また、医師には応召義務があります。
ですから、患者さんの治療は「正当な事由」がなければ、
拒むことはできません。

 

トリアージをした場合、正当な事由があるとされるためには、
以下のような点を、総合的に検討することが必要です。

 

1) 医療能力を超えた過剰な負担がある。

 

2) 選別が一定の根拠を持った公平な基準によって行われる。

 

3) 選別の結果、当面は医療行為が行われないことになった者へも、
  可能な限りの医療機会が与えられるように配慮される。

 

それぞれの場面で、通常の診療とは異なる「緊急性」とは何か、
日常診療で求められるインフォームドコンセントの原則と比較し、
どの程度異なる扱いが許されるのかについて、
今後は考えていくことが必要になると思います。