看護師のためのトラブルと法的知識

臨地実習の際の学生の守秘義務とは

臨地実習中「お酒を飲んだら即退院!」

といわれていた肝硬変の患者さんから、
「酒を飲んだ。誰にもいわないで。」と聞かされましたが、
教員に相談したところ、
教員が師長に、師長が主治医に報告をし、
患者さんが退院させられてしまいました。

 

これは、守秘義務違反に該当するのでしょうか。

学生の行為を正当化することは可能です。

 

ですが、教員には、
学生が患者さんとの信頼関係を裏切ることに
なりかねないことへの配慮が必要でしょう。

 

@ 学生の守秘義務・個人情報保護義務

 

保健師助産師看護私法42条の2で、
「正当な理由がなく、
その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない」
と、守秘義務は規定されています。
そして、倫理的義務が法的な義務に高められています。

 

 *保健師助産師看護師法42条の2

 

  保健師、看護師又は准看護師は、正当な理由がなく、
 その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。
 保健師、看護師又は准看護師でなくなった後においても、
 同様とする。

 

ですが、まだ看護師ではない学生は、
倫理的には(準)職務を通じて患者さんの秘密を知ったのである以上、
守秘することは必要です。

 

もし、学生が、どんなことでも
ほかの人に話すということになるのであれば、
患者さんは学生に話をしなくなり、
臨地実習での教育を削ぐことになってしまう可能性があります。

 

A 守秘義務は絶対的ではない−相対的義務

 

かつては、守秘義務に関する国際規定等は、
守秘義務は絶対的義務(例外を許さない)として規定されていました。

 

しかしタラソフ事件を契機とし、
現在では相対的義務、つまり一定の場合に守秘義務が解除
(守秘をほかに告げても良い)とされるとされ、
法律には「正当な理由」が解除の要件として規定されています。

 

ですから、基本的に、倫理的義務も法的義務も
ほぼ同じように考えると良いのではないかと思います。

 

 *タラソフ事件の概要

 

  1969年10月27日、プロセンジェット・ポダーが、
 タチアナ・タラソフを殺害。

 

  ポダーは、精神病患者で、カリフォルニア大学バークレー校
 コーウェル記念病院の心理学者、ローレンス・ムーア博士に治療
 を受けていましたが、その治療の中で、ポダーは、2ヶ月前、
 ムーア博士に、「ある未婚の女性を殺害する」と話していました。

 

  この時、ポダーは、具体的な名前は言いませんでしたが、
 その女性が、タチアナ・タラソフであることは容易に確認できました。

 

  ムーア博士たちは、ポダーを精神病院で診察すべきだとし、
 警察に身柄を拘束するように要請し、警察は短期間、彼を
 拘束しました。

 

  しかし、警察はポダーが理性的な状態にあると判断し、
 タラソフに近づかないとの約束を取り付けた上で、
 ポダーを釈放しました。

 

  しかし、ポダーは、外国から帰国したタラソフの家に行き、
 彼女を殺害してしまいました。

 

  この過程において、誰一人として、タラソフの両親に、
 彼女の危機を警告した者はいませんでした。

 

  この事件では、タラソフの両親が、カリフォルニア大学の
 理事会を相手に損害賠償訴訟を提起し、
 カリフォルニア州最高裁判所は1976年の判決で、
 法廷意見(多数意見)は、
 専門家たちには守秘義務が免除されるだけでなく、
 狙われている人物に「警告する義務があった。」としました。

 

B 学生の行為を正当化する根拠

 

では、どのような場合に「正当な理由」として解除することができるのでしょうか。

 

また、このケースの学生の行為は、どのように評価すべきなのでしょう。

 

このケースの場合、学生の行為を正当化する根拠には、
いくつかの考えがあります。

 

1) 飲酒が禁止されている中で、
  飲酒をしたという事実は医療を実施するための条件であり、
  これは患者さんの秘密ではなく、また医療関係者もこれを
  守秘するに値しない。

 

2) 今後飲酒が判明した場合は、退院させられるということは、
  飲酒の事実に関する事項については、どんな経路であれ、
  主治医に報告されることをあらかじめ患者さんは
  了承していたと考えてよい。

 

3) 守秘は、患者さんのケアをする医療従事者以外に告げないことであり、
  この場合は医療者に伝達しているだけで、
  守秘義務に反していない。

 

このようなことが考えられます。

 

C 学生の気持ち

 

相談した学生としては、患者さんが退院させられたということで、
しっくり来ないと思います。

 

これは、教員がしっかり学生の悩みを受け止めず、
安易に師長につげ、これが主治医に伝わってしまったために
患者さんが退院させられたということになってしまいます。

 

これでは、学生が告げ口をしたと同じになり、
学生も傷ついてしまうでしょう。

 

結果的に、師長に告げることとなるにしても、
教員は学生の悩みをしっかりと受け止め、
そこでどうするかを議論すべきだったのではないでしょうか。

 

その過程が欠落していたことが問題であるので、
このケースの場合は、学生の問題ではなく、教員の問題であるといえるでしょう。