看護師のためのトラブルと法的知識

急変による死亡事故、届出は必要?

病室で、大きな音がしたため看護師が駆けつけると、

患者さんが床に横たわっていました。

 

当直医師によって救命処置が行われ、
人工呼吸管理をしましたが、二日後の朝亡くなりました。

 

このような時、警察への届出はどのようにすればよいのでしょうか。

記録等についての実務の知恵を生かし、
新しい制度の理解を高めましょう。

 

@ 異状死届出制度

 

医師法21条では、「医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案し
異状(「異常」ではありません)があると認めたとき、
24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」
と規定されています。
この場合の罰則は、50万円以下の罰金です。

 

ですが、かねてから「異状死」とはどのような場合を指すのか、
該当制度には、自己に不利益な供述の強制を禁止した
日本国憲法38条1項に反するのではないか、
医療に関して生じた事故を警察に届け出る制度は不適切ではないか
という意見がありました。

 

* 不利益供述の拒否

 

  日本国憲法38条1項で、
 自己が刑事責任を問われる恐れがある事項について、
 供述を強制されないことが認められています。

 

 

都立広尾病院事件の平成16年4月13日最高裁判決では、
「死体を検案して異状を認めた医師は、
自己がその死因等につき診療行為における
業務上過失致死等の罪責を問われる恐れがある場合にも、
医師法21条の届出義務を負うとすることは、
日本国憲法38条1項に違反しない」とし、
憲法上の疑義に終止符を打ちました。

 

ですが、「異状死とはどのような場合を指すのか」、
「医療に関して生じた事故を警察に届け出る制度は不適切ではないか」
と言う点については、解決できてしません。

 

A 事故が生じた場合の現場の混乱

 

医療事故が生じると、医療の現場は届けを出すべきかどうかで悩みます。

 

特に、異状死については、広く規定した「法医学会のガイドライン」と、
比較的制限した「内科」、「外科」学会等のガイドラインがあり、
現場は混乱しています。

 

また、届出を受けた警察でも統一した考えがなく、
念のために届け出たのに、
このような医療事故は、殺人事件等を扱う
捜査一課が担当しますから、
警察から医療者が被疑者のように扱われるということも
少なくありません。

 

したがって、根本的には法改正でしか解決しません。
事故が生じた場合の現場の混乱は、
根本的には法改正でしか解決できませんが、
実務上の知恵と、中立的第三者機関構想による解決への取り組みがあります。

 

 

B 実務上の知恵

 

記録

 

事故を認知したときから、カルテ・看護記録は直ちに経過記録に切り替え、
事実を記載するようにします。

 

患者さんの家族

 

事故が起こると、事故対応に追われ、
家族への配慮が欠けてしまうことが少なくありません。

 

患者さんの家族と医療者の時間の感じ方は異なり、
1時間説明が遅れた場合でも、
事故隠しと疑われてしまうこともあります。

 

事故に関わる医療者

 

事故は望んで起こしたものではなく、
事故に関わった医療者への配慮や、継続的支援が必要です。

 

警察

 

現在のところ「異状死」とは何を指すのかが明確ではありませんから、
幅広く届けることが望ましいです。

 

この場合の届出は、法律で決められたものであるため、
家族胃の了承を得る必要はありません(個人情報保護法も同じ)です。

 

しかし、念のために警察に届けることを
お断りしておくことが望ましいでしょう。

 

対策

 

直ちに事故対策検討委員会を構成し、
指揮命令系統を統一することが必要です。

 

C 新しい動き(中立的第三者機関構想−モデル事業)

 

内科学会、外科学会、病理学会、法医学会の4学会が、
医療に関連して生じた患者の死亡を、
警察ではなく第三者の専門機関に届け出て、
死因を究明するシステムの構築を考えました。

 

この動きを踏まえ、厚生労働省は平成17年4月から、
解剖、調査、分析を公費で行い、
その結果をご遺族側と病院に報告するための第三者機関を、
東京・大阪ほか全国9地域のモデル地区で設置しています。

 

第三者の専門機関による調査対象は、
医療事故を含め死因があいまいな事例を
「医療(診療)関連死」として広く対象とし、
明らかな病死や刑事事件になる可能性の高いものは対象外としています。

 

医療関連しがあった場合、病院とご遺族とが同意した上で、
この第三者機関に解剖・調査・分析・報告を依頼することができます。

 

現在、医療事故解決についての議論は、
この制度を元に活発になっています。

 

(診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業
 :http://www.med-model.jp/index.html)