看護師のためのトラブルと法的知識

病院内の器具による転倒事故。責任は誰?

高齢の女性がご家族と共に精神神経科の外来に来院し、

待合室の自動血圧計で血圧測定後、
転倒してしまいました。

 

患者さんのご家族によると、
「血圧計のコードに引っかかり転倒した。」とのことですが、
この場合は、誰に責任があるのでしょうか。

法的な責任を検討する前に、
患者さんやご家族の話をよく聴き、
当面の治療やケアをし、
現状の改善を図ると同時に、
今後どのような手順で改善を行うかを
具体的に患者さんやご家族に説明をしましょう。

 

現状の具体的な改善を図るためには、
その器具は撤去する等です。

 

また、第三者(メディエーター)の手助けを求めることも大切です。

 

@ 民事責任の要件

 

病院には、健康を害している人や、
病院の施設に慣れていない人がたくさん訪れます。

 

そのような患者さんが、
ちょっとしたことで危険を引き起こす可能性のある
器具や設備がないかどうか、
病院内を見渡し確認してみましょう。

 

法的な観点から民事責任を問う要件について
みてみます(刑事責任でも基本的には同じ)。

 

法的民事責任(損害賠償責任)の要件は、
原則として、以下の3点が必要です。

 

 1) 過失
 2) 損害
 3) 因果関係(過失と侵害を結びつけるもの)

 

訴訟では、これらを原則として患者さん側が立証します。

 

A ケースの分析

 

患者さんが転倒した結果、怪我があれば2)の損害が生じたことになります。

 

問題となるのは、3)の因果関係です。

 

患者さんが「コードに引っかかった」か、
これは裁判では家族等の言い分だけでなく、
器具の配置場所・一夜目撃者の証言等を総合して判定します。

 

仮に引っかかったとしても、
その結果として転倒したといえるのかどうかですが、
患者さんが何らかの疾病を有していることからコードに引っかかったとすると、
コードが原因と判断されることになります。
(法的には、相当因果関係があるといえます)。

 

最も難しいのは1)の過失です。

 

このケースの場合は、直接的には医療従事者の行為は介在していません。
ですから過失はないといえます。

 

ですが、個別の医療従事者の過失を立証しなくても、
それが「土地の工作物」に該当し「瑕疵(かし)」であると判断されると、
民法717条により、占有者(レンタルで、病院管理者が従業員を通じて
占有をしているとしても)が、「損害の発生を防止する必要な注意をした。」
ということを立証しなければ、
病院が損害賠償の責任を負うことになります。

 

 

 *民法717条

 

 土地の工作物の設置、又は保存に瑕疵があることによって、
他人に損害を生じたときは、
その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。
ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、
所有者がその損害を賠償しなければならない。

 

 

「土地の工作物」については、
土地に接着して人工的に作り出された設備をいい、
マンションの廊下に備え付けられている消化器も
工作物に当たるとした判決もあります(大阪地裁平成6年8月19日判決)。

 

このことを考えると、病院内の器具もこれに当たると判断されます。

 

コードに人が引っかかりやすいように、
通路にコードが出ていたような場合は「瑕疵」があると
判断されてしまうこともあるでしょう。

 

B 対処のポイント

 

法的な責任を判断するためには、
「証拠に基づき」、「事実を調べ」、
「要件に該当するかどうかを判断」
することが必要ですし、
時には食い違うこともあります。

 

そして、実際の事故直後は、
これらの作業を直ちにすべて行うことはできません。

 

ですから、まず、患者さんや家族の話をよく効くことが大切です。

 

その上で必要があれば、
まずは当面の治療やケアを行い、
現状の改善を図る(器具を撤去する等)と同時に、
今後、どのような手順で改善を行うかを、
具体的に患者さんに説明することが大切です。

 

当事者同士で話をすることが難しい場合は、
場合によって、公平な第三者(調停人・メディエーター)に入ってもらい、
お互いの責任だけを追及するのではなく、
今後どうするかを中心に話を進めていきます。