看護師のためのトラブルと法的知識

ナースコールをしない患者さんが転倒、骨折した場合

ナースコールをしない患者さん。

 

足が悪く、杖を使用している高齢の患者さんで、
入浴やトイレ等はある程度自分です。

 

部屋へ戻る際は必ずナースコールをしてもらうようにし、
介助を行っていますが、
コールせず、自力で戻ろうとして転倒してしまい、
骨折等をしてしまった場合などは、
どのような法的問題が生じるのでしょうか。

このような場合は、コールをしなかった理由のいかんによって、
対応や法的問題は異なってきます。

 

@ ケースの分析

 

このケースは、「患者さんがルールを無視したこともあり、
事故が生じた場合の対応をどうするか?」
という問題が絡んだ医療事故です。

 

1) 精神状態等の問題から
  そもそもルールを守ることができない患者さんかどうか。

 

2) できるとしても、患者さんがそのルールを十分に理解して、
  自らの身を守る問題としてとらえているかどうか。

 

3) ルールを守らない患者さん。

 

このようなケースの場合は、
患者さんへの対応とその結果生じた事故への対応という側面から
分析していくことが必要です。

 

A 判断能力-意思能力

 

1)の場合は、通常、法的には「意思能力」という言葉で表します。

 

民法は、法律上明文規定はありませんが、有効な法律行為(典型的には契約)をするには、
その行為につき、通常人並みの理解および選択能力を必要とすることを
前提としています。

 

つまり、一般的には、幼児、重度の知的障碍者、泥酔者などは
意思能力がないとされます。

 

したがって意思能力を欠く人の意思表示は、
大審院明治38年5月11日判決にあるように、無効となります。

 

もし、意思能力が欠けているのであれば、
そもそもルールを守ることは難しい状態ですから、
ルール違反をその患者さんの不利に扱うことは不可能です。

 

この場合、ルールを守れないことを前提とした
リスクマネジメントが求められます。

 

意思能力は、判例・学説によると6〜7歳くらいで備わるとされています。

 

高齢者の場合は、長谷川式スケールなどを用いて判断しますが、
明確な基準を設けることは難しいという実情があります。

 

もし、病気によってルールを守れないのであれば、
患者さんがルールを守らなかったとしても、
患者さんを責めることはできません。

 

 ●長谷川式スケール

 

  長谷川式スケールとは、1974年、元聖マリアンナ医科大学長の
 長谷川和夫氏によって作成された、認知症の診断に使われるスケールです。

 

  現在では、おもに1991年に改定された
 「改定長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」が、用いられています。

 

  改定長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は、
 被験者に、年齢や計算、言語の流暢性などについて9つの質問に答えてもらい、
 正解の数や解答するまでの時間で点数をつけ、
 判断等の能力を評価していきます。

 

B 理解がされているか

 

2)は、看護師が患者さんに「浴室から帰るときやトイレに行くときは
コールをしてください。」と伝えているかだけでなく、
なぜ、ナースコールが必要なのか、
ナースコールをすることによって患者さん自身の入院生活上の
安全が確保されるものになるということを
患者さんにわかるように伝えているかどうかということが関係してきます。

 

また、このケースの場合は、
患者さんが恥ずかしさを感じる場面でもあり、
自分でもできることを示したい思う場面でもあります。

 

もし、以前、看護師が「Mさん、またおしっこ?」
というような発言をしたとすると、
患者さんは、羞恥心が沸いてしまうかもしれません。

 

その羞恥心が、コールを避ける原因となっているということも考えられます。

 

そのような場合は、ナースコールをしないのは無理のないことです。

 

C 患者さん自身の行為により患者さんの安全が守られること

 

3)は、ルールを守らないことは病院の体制を乱し、
ほかの患者さんへのケアの質を下げるということになります。

 

ですから、ルールを守らなければ、
病院の体制を乱し、ほかの患者さんの迷惑になることを患者さんに説明し、
それでもルールを守らない場合は、「入院・診療契約違反」
に該当することを、理解してもらう必要があります。

 

つまり、ルールを守らない患者さんには、
患者さん側も、相互的な義務(協力義務)を負うという考え方です。

 

このような相互的な義務は、
倫理的な義務にとどまらず、法的な義務を負うと考える余地があり、
患者さんの著しいルール違反で生じた結果については、
医療者側の責任は、民法722条の「過失相殺」により低減されます。