看護師のためのトラブルと法的知識

告知を拒否する患者さんへの対応

子宮から出血し入院した患者のMさん。

 

「診断結果は知りたくないので告げないでほしい」
といっていますが、家族もいないとのこと。

 

もし、診断結果が生死に関わることであっても、
あくまでも本人の希望を尊重すべきなのでしょうか。

 

また、家族の住所はどの程度探ればよいのでしょうか。

本人の気持ちに寄り添いながら、
本人にとって最善の利益を一緒に考え、
対応していくことが大切です。

 

@ 家族への告知についての判例

 

平成14年9月24日最高裁判決の事例で考えてみましょう。

 

この事案の概要は、平成2年10月、患者Aさんが、
ある病院の循環器外科で胸部レントゲン撮影の検査等を受け、
結果、B医師はAさんを病気Wに相当する進行性のがんに離間している状態にあり、
余命は長くて1年程度と判断し、
その旨をカルテに記載しました。

 

この医師Bは、Aさんにこれを告知するのは適当でないと判断したものの、
家族にもこれを告げないでいたところ、
診療の担当から外れてしまいました。

 

平成3年3月、患者のAさんは、胸の痛みを訴え、
別の病院を受診し、末期がんを告げられ、
その後は入退院を繰り返し、同年10月に死亡しました。

 

そのため、遺族から損害賠償を求め、
医師Bへの訴えが提訴されました。

 

この事案の平成14年9月24日最高裁判決の判例では、
「患者本人にはその旨を告知すべきでないと判断した場合には、
患者本人やその家族にとってのその診断結果の重大性
(この判例ではがんの末期で余命が限られていると診断)に照らすと、
当該医師は、診療契約に付随する義務として、
少なくとも患者等のうち連絡が容易な者に対して接触し、
同人又は同人を介して更に接触できた家族等に対する告知の適否を検討し、
告知が適当であると判断できたときには、
その診断結果等を説明すべき義務を負うものといわなければならない。」
としています。

 

ですが、判例は
 1) 「患者の家族等のうち連絡が容易な者」とは、どの範囲なのか。
 2) 「同人又は同人を介して更に接触できた家族等」とは、どの範囲なのか。
 3) 「告知が適当であると判断できたとき」とは、
    どのような条件が整ったときを指すのかという問題には
    明確な基準は示していません。

 

ですから、これらは事案ごとに、
医療者が患者さんに寄り添いながら考えていくことになります。

 

また、このケースの場合は、
「がんの末期」とも「余命が限られている」とも
診断されていない場合ですから、
より柔軟な対応が求められます。
A 考え方

 

このケースの場合、医療者としては、患者さんの「知りたくない気持ち」や、
「家族に告げないでほしい」と言う気持ちに違和感を抱いてしまうでしょう。

 

ですが、その気持ちはまず横において、このケースでは

 

 1) 患者のMさんを追及するのではなく、
   なぜ診断結果を知りたくないのかを一緒に考える。

 

ことからはじめます。

 

その上で、

 

 2) 家族と分かち合うことの意味を考え、
   本人の最善の利益に沿った適切な方策を考えることが第一です。

 

このケースでは、あくまで本人がこれらを理解し、
自発的な形で家族の連絡先を教えてもらうことが大切です。

 

 *平成14年9月24日最高裁判決の判例では、
 「家族による物心両面からの支えは、
 患者さんにとっても利益である」と示唆しています。

 

●個人情報保護法との関係

 

個人情報保護法との関係においては、
家族に患者さんの病状を伝えることも、
形式的には「第三者提供」に該当します。

 

ただ、個人情報保護法23条1項2号により、
切迫性やそれによって家族から適切な本人支援が期待できる場合は、
伝えることができます。

 

 *個人情報保護法23条1項2号
 「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、
 本人の同意を得ることが困難であるとき。」を参照してください。

 

B 医療は、医療者と患者さん、家族との協同作業と考える

 

bad-newsを伝えること(ここではがん告知)は、
患者さんの権利たる自己(意思)決定権、知る権利、
インフォームドコンセント(IC)の問題として議論されています。

 

法の観点からは、IC・告知問題は、
患者さんの自己決定権や知る権利と、
医療者の裁量権が対立している中での
両者の調和・調整の問題と考えることになります。

 

ですが、そのような対立関係におかれると、
患者さんは権利を主張します。

 

医療者は、訴訟対策として形だけの同意書をとったり、
並存的に選択肢を提示して患者さんに選択を委ね、
専門家としての責任を放棄するということに陥ってしまいます。

 

本来、医療者・患者関係は、
法が切り取って対象とする「説明の要求」、「開示・説明義務の履行」、
「同意」という独立した法主体間の一時的、一方的な行為ではないはずです。

 

むしろ、医療における開示・説明・同意は、
継続的で相互的な対話であり、
それはケアそのものであるともいえるものです。